ボクシングの井上拓真選手は、アマチュア時代に57戦52勝という好成績を残し、プロでは22戦20勝(5KO)2敗という戦績を持つボクサーです。
2023年にはWBA世界バンタム級王座を獲得し、2度の防衛に成功しましたが、2024年10月の堤聖也戦で王座から陥落しました。
さらに王座陥落後には「引退を考えた」と報じられるなど、キャリアの転機を迎えた選手でもあります。
この記事では、井上拓真選手の戦績やこれまでの歩み、引退を考えたとされる背景、全試合の記録、そして今後の展望について、初めて知る方でも理解しやすいようにwiki風にまとめています。
井上拓真のプロフィール|Wiki風
- 名前:井上 拓真(いのうえ たくま)
- 生年月日:1995年12月26日(29歳)
- 出身地:神奈川県座間市
- 階級:バンタム級
- 身長:164cm
- リーチ:163cm
- スタイル:オーソドックス
- 所属ジム:大橋ボクシングジム
- プロ戦績:22戦20勝(5KO)2敗
- アマ戦績:57戦52勝(14RSC)5敗
| No. | 日付 | 対戦相手 | 結果 | タイプ/ラウンド | 開催地・会場 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 2013/12/06 | 福原 辰弥 | 勝ち 判定 | 6R判定 | 東京・両国国技館(プロデビュー戦) |
| 2 | 2014/04/06 | ティーラポン・ウタイダ | 勝ち 判定 | 8R判定 | 東京・大田区総合体育館 |
| 3 | 2014/09/05 | チャレム・コタラ | 勝ち TKO | 2R TKO | 東京・国立代々木競技場 |
| 4 | 2014/12/30 | ネストール・ナルバエス | 勝ち 判定 | 8R判定 | 東京・代々木第二体育館 |
| 5 | 2015/07/06 | マーク・アンソニー・ヘラルド | 勝ち 判定 | 12R判定 | 東京・後楽園ホール(OPBF王座獲得) |
| 6 | 2015/12/29 | レネ・ダッケル | 勝ち 判定 | 12R判定 | 東京・有明コロシアム(OPBF防衛) |
| 7 | 2016/05/08 | アフリザル・タンブレシ | 勝ち TKO | 2R TKO | 東京・有明コロシアム |
| 8 | 2016/09/04 | フローイラン・サラダール | 勝ち 判定 | 10R判定 | 座間・スカイアリーナ座間 |
| 9 | 2017/08/30 | 久高 寛之 | 勝ち 判定 | 10R判定 | 東京・後楽園ホール |
| 10 | 2017/12/30 | 益田 健太郎 | 勝ち 判定 | 10R判定 | 横浜文化体育館 |
| 11 | 2018/05/25 | ワルド・サブ | 勝ち KO | 1R KO | 東京・大田区総合体育館 |
| 12 | 2018/09/11 | マーク・ジョン・ヤップ | 勝ち 判定 | 12R判定 | 東京・後楽園ホール |
| 13 | 2018/12/30 | ペッチ・ソー・チットパッタナー | 勝ち 判定 | 12R判定 | 東京・大田区総合体育館 |
| 14 | 2019/11/07 | ノルディーヌ・ウバーリ | 負け 判定 | 12R判定 | さいたまスーパーアリーナ(WBC世界戦) |
| 15 | 2021/01/14 | 栗原 慶太 | 勝ち 負傷判定 | 9R 負傷判定 | 東京・後楽園ホール |
| 16 | 2021/11/11 | 和氣 慎吾 | 勝ち 判定 | 12R判定 | 東京・後楽園ホール |
| 17 | 2022/06/07 | 古橋 岳也 | 勝ち 判定 | 12R判定 | さいたまスーパーアリーナ |
| 18 | 2022/12/13 | ジェイク・ボルネア | 勝ち TKO | 8R TKO | 東京・有明アリーナ |
| 19 | 2023/04/08 | リボリオ・ソリス | 勝ち 判定 | 12R判定 | 東京・有明アリーナ(WBA世界王座獲得) |
| 20 | 2024/02/24 | ジェルウィン・アンカハス | 勝ち KO | 9R KO | 東京・両国国技館(WBA世界戦) |
| 21 | 2024/05/06 | 石田 匠 | 勝ち 判定 | 12R判定 | 東京ドーム(WBA世界戦) |
| 22 | 2024/10/13 | 堤 聖也 | 負け 判定 | 12R判定 | 東京・有明アリーナ(WBA世界戦) |
アマチュア時代〜プロデビューまで
井上拓真選手は、小学生の頃からボクシングに親しみ、幼い頃から競技経験を積んできた選手です。
兄・井上尚弥選手の影響も大きく、兄と同じ大橋ボクシングジムで練習に励む中で、自然と高度な技術を吸収していきました。
アマチュア時代は、全国大会や国際大会に数多く出場し、57戦52勝という圧倒的な勝率を記録しています。
その戦い方は派手なKOで勝ちにいくタイプではなく、正確なジャブとディフェンスを軸に、ポイントを重ねていく“完成度の高いボクシング”が特徴でした。
試合運びの巧さや、リズムを乱さないメンタルの強さは早くから評価され、「将来確実にプロで活躍する選手」として注目されていました。
そして2013年12月6日、東京・両国国技館で迎えたプロデビュー戦。
相手は福原辰弥選手。
アマ経験の豊富さを感じさせる冷静な試合運びで、プロらしい固さを見せつつも、距離管理やコンビネーションの精度で主導権を握り、判定勝利で初陣を飾りました。
このデビュー戦後、専門家からは「技術の完成度はすでにトップレベル」「プロ仕様のフィジカルが付けばタイトル戦線に入る」といった声も挙がり、兄とは違う“技巧派路線”での成長が期待されるようになりました。
プロ入り当初から、単なる有望株ではなくすぐに世界を狙える素材と評されていたのが、井上拓真選手の大きな特徴と言えます。
タイトル戦線への浮上と世界王座獲得まで
井上拓真選手のプロキャリアは、デビュー直後から非常に安定しており、序盤から対戦する相手のレベルが徐々に引き上げられていきました。
特にプロ特有のフィジカルや距離感への対応が早く、アマチュア時代の経験をうまく活かしながら、階級の強豪たちと互角以上に渡り合う力を身につけていきます。
こうした積み上げが評価され、国内を飛び越えてアジア圏でのタイトル戦線へと進出していきました。
ここから、井上拓真選手は本格的に“世界を見据えた戦い方”に進化していきます。
東洋太平洋タイトルの獲得
プロ入り後の井上拓真選手は、デビュー直後から高い安定感を見せ、順調にキャリアを積み重ねていきました。
アマチュア仕込みの正確なジャブと冷静な試合運びはプロの舞台でも十分に通用し、国内レベルでは早くも頭ひとつ抜けた存在として評価されていきます。
そして迎えた2015年7月6日。
プロ5戦目にして東洋太平洋(OPBF)スーパーフライ級王座決定戦の舞台に立ちます。
対戦相手はマーク・アンソニー・ヘラルド選手。攻撃的なスタイルで知られ、アジア圏でも経験豊富な強豪でした。
この試合で井上選手は、持ち味であるディフェンス能力と距離管理を最大限に発揮します。
相手の強打を空転させ、的確にカウンターを当てる展開が続き、主導権をほぼ渡さないまま試合を進めていきました。
最終的に判定で勝利し、プロ6戦目で東洋太平洋王座を獲得。
これは非常に速いスピードでの regional title 取得であり、「アジアから世界レベルへ向かうための重要な階段」をわずか2年足らずで踏み上げたことになります。
このタイトル獲得をきっかけに、井上拓真選手は一気に国際的な評価を高め、世界ランキングにも名を連ねるようになります。
当時の専門家からも、
- 「技巧派としての完成度はアジアトップクラス」
- 「世界挑戦は時間の問題」
- 「兄とは違う形で世界王者になる可能性が高い」
といった声が多数寄せられ、キャリアの転機となる大きな勝利でした。
OPBFタイトルは“世界挑戦前の関門”とも言われる重要なステップですが、その舞台で見せた井上拓真選手の冷静さと技術の高さは、将来の世界タイトル獲得を強く予感させる内容だったと言えます。
世界初挑戦と挫折
東洋太平洋王座を獲得し、国内外での評価を一気に高めた井上拓真選手は、世界戦線への本格的な挑戦権を得る立場に到達します。
その中で迎えたのが、2019年11月7日のWBC世界バンタム級タイトルマッチ。
対戦相手は当時の王者ノルディーヌ・ウバーリ選手でした。
ウバーリ選手は、サウスポーでありながら強打と鋭いタイミングを併せ持つ技巧派ボクサー。
世界的な実力者として知られ、簡単に王座が揺らぐタイプではありませんでした。
試合序盤は、お互いに距離を探り合う静かな展開で進みます。
井上拓真選手は得意のジャブを軸に主導権を握ろうとしますが、ウバーリ選手の踏み込みと角度のついた左ストレートに対応するのが難しく、徐々に攻撃を制限されていきます。
中盤以降も、ウバーリ選手のラウンドごとの調整能力と安定した攻撃精度により、ポイントを奪われる展開が続きましたが、それでも最後まで諦めずに攻撃の糸口を模索し続けました。
結果は判定負けとなり、初の世界挑戦は悔しい黒星で終わります。
しかし、この試合で得た経験は非常に大きなものでした。
- 世界トップクラスとの「差」が明確になった
- サウスポーへの対応力
- 1ラウンド単位での修正力の重要性
- 世界戦のプレッシャー下でのメンタル調整
こうした課題の可視化が、その後の井上拓真選手の飛躍につながり、結果として「負けたことがキャリアのターニングポイントになった」と評価されるほどでした。
井上拓真選手は、この敗戦を境にフィジカル強化、フットワークの改善、ディフェンスの再構築など、技術面・体力面の底上げに着手していきます。
まさに、成長の起点となる一戦だったと言えます。
WBA世界バンタム級王座獲得
世界初挑戦から約3年を経て迎えた2023年4月8日。
井上拓真選手は、有明アリーナで行われたリボリオ・ソリス戦に挑みました。
この一戦はWBA世界バンタム級の王座決定戦として行われ、勝者が新たな世界チャンピオンとなる重要な試合でした。
ソリス選手は元世界王者であり、キャリア豊富なベテラン。
攻めの姿勢を崩さず、打ち合いにも強いファイタータイプで、対策の難しい相手でした。
試合は序盤から井上拓真選手の丁寧なジャブが機能し、落ち着いた立ち上がりを見せます。
距離のコントロール、リズムの変化、無駄な被弾を避けるディフェンスなど、過去の敗戦を糧に磨き上げた“構築されたボクシング”が随所に表れます。
中盤以降、ソリス選手の圧力が増す中でも焦らず、冷静にカウンターを打ち込み、ポイントを積み上げていく井上選手。
特に、終盤のラウンドで見せた落ち着きと試合支配力は見事で、「世界王者にふさわしい内容」と評価されました。
そして12ラウンド終了後、判定は3-0。
念願のWBA世界バンタム級王者に輝きます。
その後の防衛戦では、元IBF世界王者ジェルウィン・アンカハス選手を9ラウンドKOで下し、世界戦での“勝ち切る強さ”を示しました。
続く石田匠選手との防衛戦でもフルラウンドを通して主導権を握り、丁寧なアウトボクシングで判定勝利を挙げています。
これら2試合の内容は非常に高く評価され、
- 「世界王者としての貫禄が出た」
- 「技巧派としての強みを最大限に発揮した」
- 「試合運びの正確さがさらに向上した」
など、国内外から称賛される結果となりました。
このWBA王座獲得と防衛成功は、「技巧派で強い井上拓真」というイメージをより強固なものにし、キャリアの絶頂期を迎えた瞬間でもありました。
王座陥落と引退を考えた理由
WBA世界バンタム級王座を2度防衛し、完成度をさらに高めていた井上拓真選手。
しかし、その勢いの中で迎えたのが 2024年10月13日・堤聖也選手とのタイトルマッチ でした。
同学年であり、アマチュア時代から互いを知る存在同士の一戦は“世代対決”として大きな注目を集めます。
試合展開と敗因
試合は序盤から堤選手のプレッシャーとリズムの変化にやや苦戦する展開となりました。
得意のジャブで距離を作ろうとしても、相手の踏み込みが鋭く、思うように試合の主導権を握れません。
中盤以降は徐々に自分のリズムを取り戻しつつも、ラウンド毎の細かい積み重ねでポイントを奪われる形になりました。
打たれ強く崩れない井上選手らしく、最後まで粘り強く戦いましたが、判定は 0-3 の負け。
これにより、井上拓真選手は保持していたWBA世界王座を手放すことになります。
なぜ敗戦がそれほど大きな衝撃になったのか
王座陥落自体ももちろん大きな出来事でしたが、井上拓真選手にとってこの敗戦は、単なる黒星以上の意味を持っていました。
- 世代的に「勝たなければいけない相手」と見られていた
- 成熟しきった“完成度の高いボクシング”でも勝ち切れなかった
- 世界王者としての責任とプレッシャーの大きさ
- 世界ランカーのトップに居続けてきたプライド
これらが重なり、敗戦直後には相当の精神的ショックがあったとされています。
■ 試合後に“1か月ほど引退を考えた”理由
試合後の報道では、井上拓真選手が「1か月ほど引退を考えた」と語ったことが伝えられました。
その背景には、技術的な悔しさだけでなく、ボクサーとしての人生そのものに関わる葛藤がありました。
井上拓真選手は、派手なKOで魅せるタイプではなく、技術と精度で勝負する“技巧派の頂点”を目指してきた選手です。
そのスタイルの完成度を高めるため、長年かけて積み上げてきた努力がありました。
しかし堤選手との一戦では、積み上げてきたものが通用しなかった部分もあり、
- 「自分のボクシングは世界で通用し続けるのか?」
- 「もう一度、同じ場所に戻れるのか?」
- 「ここで潮時なのではないか?」
と、自分自身に厳しく問い直す期間があったのです。
■ それでも“現役続行”を選んだ理由
葛藤の末、井上拓真選手は「現役続行」を選びます。
その理由として考えられるのは、
- ボクシングへの強い情熱がまだ消えていなかった
- 改善すべき点が明確になり、もう一度挑戦したくなった
- タイトル再奪取への気持ちが湧き上がってきた
- 支えてくれた周囲の存在
- 兄・尚弥選手の再挑戦を見続けてきた影響
こうした複数の要素が、井上拓真選手の背中を押したと考えられます。
ボクシング人生において“引退を考えるほどの敗北”というのは、大きな分岐点です。
しかし、そこからもう一度挑戦する道を選ぶ井上拓真選手の姿勢には、多くのファンが心を動かされています。
今後の展望|再起戦と世界戦線
堤聖也戦で王座を失った井上拓真選手は、一時は引退も考えるほど深い葛藤を抱えました。
しかし最終的には現役続行を決意し、「もう一度世界の舞台に戻る」という明確な目標を掲げています。
その再起の最初のステップとして大きな注目を集めているのが、2025年11月24日に予定されている那須川天心選手との一戦です。
この試合はWBC世界バンタム級王座をかけて行われる見通しで、井上拓真選手にとっては世界王者奪還を狙う絶好のチャンスとなります。
那須川天心選手はスピードと反応の速さが武器の“異質なスタイル”の持ち主。一方、井上拓真選手は丁寧なジャブとディフェンスで試合を組み立てる技巧派。
両者のスタイルがどう噛み合うかが勝負の鍵を握るポイントです。
今回の試合は単なる再起戦ではなく、
- 世界王座への復帰
- 前回の敗戦からの完全リスタート
- ボクサーとしての価値を再証明する戦い
という意味を持つ、井上拓真選手のキャリアにとって極めて重要な一戦です。
敗戦から立ち上がり、もう一度世界の頂点を目指す姿は多くのファンの期待を集めています。
その再挑戦がどのような結果につながるのか、今後の動向にも注目が集まります。
参考リンク一覧
- Wikipedia(Takuma Inoue / 井上拓真)
- BoxRec(戦績データ)
- MartialBot(試合データベース)
- 大橋ボクシングジム公式
- 日刊スポーツ
- 中日スポーツ
- スポニチ
- THE ANSWER

この記事を書いた人
管理人:山邊 俊太
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