2025年11月、スペイン・パンプローナで開催される「トランポリン世界選手権」に向けて、国際体操連盟(FIG)が採点ルールを改定しました。
新ルールは競技の公平性を高めるだけでなく、技の“美しさ”や“安定感”をより重視する内容となっています。
この記事では、2025年大会から導入される採点基準と技の評価ポイントや、選手や観戦者にどんな影響があるのかを新ルールのまとめとして徹底解説します。
2025年トランポリン世界選手権の概要
大会は2025年11月5日から9日まで、スペイン北部の都市・パンプローナで行われます。
主催は国際体操連盟(FIG)で、個人・シンクロ・団体・ダブルミニトランポリンの4種目が実施されます。
パンプローナは闘牛祭で知られる街ですが、今回は世界中のトップ選手が“空中の芸術”を競う舞台となります。
日本代表チームもすでに調整を進めており、メダル獲得への期待が高まっています。
新ルール改定の背景
今回のルール改定は「採点の透明性向上」と「技の多様化への対応」が目的とされています。
トランポリン競技は年々技が高度化しており、審査員の主観が入りやすいという課題がありました。
そのため、2025年大会からは採点基準をより明確にし、AI解析などのテクノロジーを活用する方向へとシフトしています。
この改定により、「難しさ」だけでなく「美しさ」「安定感」も得点に大きく影響するようになりました。
新ルールの主な評価のポイントと採点基準の変更点
2025年から適用される新ルールの要点は次の通りです。
① 技の“高さ”より“安定性”を重視
これまでのトランポリン競技は、「どれだけ高く跳べるか」が最大の見どころでした。
滞空時間が長いほど技の難易度を上げやすく、審査の評価ポイントでも高得点につながる傾向があったため、選手たちは高さを競ってきました。
しかし、2025年大会からはその評価ポイントが見直されます。
FIG(国際体操連盟)は「高さ」よりも「安定性」を重視し、技全体の精度と再現性を評価する方針を打ち出しました。
滞空中に軸がぶれる、着地で一歩でも動く、といった細かな乱れが明確に減点対象となります。
つまり、これからは“力強く高く”よりも、“美しく安定して”がキーワード。
この変更は、体格や筋力で高さを出しにくい選手にもチャンスを広げる改革でもあります。
若手選手や技術型の選手にとって、得点を狙いやすい環境が整ったと言えるでしょう。
② 離陸から着地までの姿勢評価を細分化
新ルールの大きな特徴のひとつが、「姿勢評価の細分化」です。
従来は演技全体の印象として減点されていた部分が、段階ごとに明確に数値化されます。
離陸、滞空、着地――この三つのフェーズそれぞれに評価ポイントが設けられ、特に着地時の安定性は独立した採点基準として扱われます。
離陸の瞬間に体が傾いていないか。
滞空中に軸がずれていないか。
着地の際に沈み込みやふらつきがないか。
これらがすべて個別に採点されるため、「中盤の見栄えだけで稼ぐ」ことが難しくなりました。
選手には、全体の流れを一つの“作品”として完成させる力が求められます。
③ 回転数やツイストの難易度の採点基準がより細かく分類
トランポリン競技の技は、回転やツイスト(ひねり)によって難易度が決まります。
従来のルールでは、「何回転したか」「何回ひねったか」で大まかに点数が決まっていました。
しかし、技術が進化する中で、同じ回転数でも姿勢や動作の構成によって難しさが異なるケースが増えています。
そのため新ルールでは、回転軸・姿勢・ツイスト方向などを細分化して採点基準を分類。
同じ3回転でも、体勢の変化(例:タック姿勢からレイアウト姿勢)やひねりの方向性によって加点差が生まれます。
これにより、単に“たくさん回る”だけでは評価されにくくなり、技の構成やリズム、フォームの完成度を高めることが重要になります。
選手の個性や表現力がより反映されるルールとも言えます。
④ 団体戦に「構成点(コンポジション)」を新設
団体戦のルール改定も注目すべきポイントです。
これまでは、各選手の個人得点を単純に合計して順位を決めていました。
しかし2025年大会からは、チーム全体の構成を評価する「構成点(コンポジション)」が導入されます。
構成点では次のような観点が採点されます。
- チーム全体の演技に統一感があるか
- 各選手の技構成が戦略的に組まれているか
- 同じ技が連続しておらず、構成に多様性があるか
つまり、ひとりのスター選手が突出していても、チーム全体のバランスが悪ければ高評価にはつながりません。
「全員が安定して高水準の演技を見せるチーム」が上位に来やすくなるでしょう。
日本代表のように、全体の精度が高く、統一された演技構成を得意とするチームには有利なルール変更です。
一方で、個人頼みのチームは戦略の再設計を迫られることになります。
採点基準の変更点
今回のルール改定で、FIGは採点方法そのものを再構築しました。
得点は主に以下の3要素で構成されます。
- Dスコア(Difficulty):技の難易度
- Eスコア(Execution):演技の正確性・安定性
- Tスコア(Time of Flight):滞空時間
従来はDスコアの比重が高く、難しい技を組み込むことが有利とされてきました。
しかし、新ルールではEスコアとTスコアの配点が見直され、「いかに安定して、正確に演技を行うか」が得点に大きく影響します。
また、審査体制も二重構造に改められ、審査員が「技術担当」と「姿勢担当」に分かれる方式が導入されました。
これにより、主観的な印象による採点のばらつきを防ぎ、透明性を高める狙いがあります。
さらに、一部の試合ではAIモーションキャプチャを使った自動解析も試験的に導入され、着地の安定性などが数値化される予定です。
テクノロジーによる採点の精度向上も、今大会の注目点のひとつです。
観戦者目線での注目ポイント
ルール改定により、観戦者の視点にも新しい楽しみが加わりました。
これまでのように「高さ」や「回転の多さ」だけでなく、演技全体の完成度”や“姿勢の美しさに注目すると、競技の奥行きがより感じられます。
特に注目したいのは、シンクロ競技での「タイミングの一致度」です。
わずか0.1秒のズレでも減点対象となるため、二人の選手の呼吸が完全に一致しているかどうかに注目すると、緊張感のある観戦ができます。
また、採点が可視化される可能性が高く、今後は観客がリアルタイムで得点推移を楽しめる時代になるかもしれません。
「技の美しさ」を見るスポーツとして、トランポリンはより多くの人に親しまれる存在になりそうです。
まとめ|新ルールの本質は“完成度の時代”
2025年のトランポリン世界選手権は、新ルールによって競技の本質が変わる節目の大会です。
これまでのように高さや回転数を競う時代から、正確さと美しさを競う時代へ。
選手はより完成度の高い演技を求められ、観る側も技の繊細な違いを感じ取れるようになります。
スポーツとしての緊張感と、芸術としての美しさが融合する。
これら4つのルール改定は、トランポリン競技を“完成度の時代”へ導くものです。
FIG(国際体操連盟)の狙いは、スポーツとしての厳密さと、芸術としての完成度を両立させることにあります。
これまでのように高さや難易度で魅せるだけでなく、技の流れや姿勢の美しさまでが勝敗を左右します。
観戦する側にとっても、「どれだけ高く跳ぶか」だけでなく「どれだけ安定して、美しく跳ぶか」を見る楽しみが増える大会になるでしょう。
パンプローナで行われる今大会は、まさに“新しいトランポリンの幕開け”を象徴する一戦となりそうです。



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